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少々体調を崩していましたが、少しずつ浮上中。
毎回ビョーキになると、「健康ってすばらしいっ!」と
実感しましね、お年寄りのように(笑)。
 
書きたいことはたまってるのですが、今日はお話更新。
 
サイト内でいっこやりたい企画があるのですが、
そのために書いて、ボツったのものです。
タイトルも決まらないので、こちらに投下。
 
年末お忙しいかと思われますが、ヒマっこな際はのぞいて下さいませ。
 
また今晩でも更新にもどりますーw
 
 
 



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笑ってくれればいいのに。
笑ってくれればいいのにって思った。
君が、思い出になる前に。
 
年末の雑踏から逃れるすべを知らず、結局スターバックスに入って一息つくことにした。 
久しぶりに帰省したこの田舎にもこういったモールはちゃんと存在していて、
国内のどの町並みもどことなく似通っていく気がする。 
だからだろうか、地元に対して懐かしいという気持ちもそう起こらず、
こんなに長くはなれていてもあまり気にならないのは。

忙しさにかまけて正月すら帰ってこなかった地元にもどってきたのは、
結婚相手を家族に引き合わせるのが目的だった。 
ありがたいことにおとんもおかんも必要以上に喜んだし、妹なんか
「あんたでも結婚できるんやね」
なんて驚愕ともいえない表情で祝ってくれた、多分あれはあいつなりの祝い言葉だ。 
意気投合したのか嬉しくて回りが見えないのか、
おかんと妹と彼女は仲良く夕食の買い出しに出かけた。 
運転手役の俺はそれ以外に用はないらしく、
「終わったら電話するからぶらぶらしてて」
などど軽く突き放され、今に至る。 

年末の騒がしい中、スターバックスもそれに息を合わせるかのように満員御礼で、
並んで購入したモカをようやく受け取って、俺は座れる席を探した。 
店内は広いけどそれでも空いてる席を見つけ出すのは至難の技。 
ようやく見つけた壁沿いの席に心持ち早足で向かうと、ほっとした気持ちでトレイを置いた。 

そして顔をあげた途端、俺の中の血が一気に逆流した。
俺が座ろうとしてる隣のテーブルに、座っていたのだ。 三重野美穂、が。

ばちりと目があった。 と、思った。 
けど、気がつかないのか焦点があってなかったのか、
美穂は何も表情を変えずに視線をまた読みかけの本に落とす。 
その目から解放された気持ちになって、
俺は空気が抜けた風船みたいにふにゃりと席に腰かけた。 
相手は壁沿いのソファ側で、俺は椅子で、隣のテーブルで。
 

これじゃ目をあげたら絶対ふつーにご対面な場所だろ、俺。 
でもだからって今さら立ちあがってソファ席に座れねーし。 
むしろこのまま自然に立ちあがって店を出るべきだろそうだろ俺。
 
 
そんなことが頭の中をぐるぐると高速で回転して、
やり場のない視線を目の前のカップに集中していたら、途端もっと恥ずかしくなった。 

苦い飲み物が嫌いな俺がコーヒーを飲み始めたきっかけは、美穂がモカをすすめたからだ。 
チョコレートシロップの入った甘いそれはいかにも俺の口に合って、それ以来モカしか飲まない。 
そして今目の前にいるのは、美穂と、モカ。 なにこれ、なんていうの、因果関係? 

 
「 深田くん。 」
「 うおいす。 」

 
呼ばれた、ので返事した。 
裏返ったかのような緊張感丸出しの俺の声とは違って、美穂の声はやわらかくて、
昔の記憶をこつこつとノックする。
 
 
「 三重野です。 三重野、美穂。 」
「 うん。 覚えてる。 」

 
化粧してる。 まっすぐ、というか斜め前に座ってる美穂は高校生じゃなかった。 
ちゃんと化粧しててきれいになってた。 
子供じゃなかった。 大人だった。

 
「 東京で就職したんだよね。 」
「 そう。 み、三重野さんは。 」
「 ここで就職した。 」
「 そう。 」

 
美穂と、俺は、つきあっていた。 高校2年から、3年まで。 たしか1年と3カ月。 
卒業して俺は東京の大学に行って美穂は地元の短大に入って、それからすぐに、その、終わったんだけど。

 
「 久しぶり。 」

 
声が、枯れた。 
「終わった」というのはある意味捏造で願望だ。 俺らはちゃんと終わってない。 
大学最初の夏休みに帰省して、浮かれた俺と高校時代から変わらない美穂の間が
ひどく離れてしまっていたことを感じたから、それ以来連絡をとってなかった。 
電話も出なかったし、メールもあまり返さず、
そしたら美穂もそれと感づいたのか電話しなくなってメールもなくなった。 
そして、そのまま。 
自然消滅という言葉が初めて使われたのは、医学や化学上必要な単語だからではなくて、
終わりを無難に迎えようとする男女間の摂理を表すという重要な・・・

 
「 ホントに、久しぶりね。 」

 
真面目な顔で美穂が言葉を返した。 頭の中が混乱してるのは俺の方だけのようだ。 
そう思ったら、突然ひどい罪悪感に襲われた。 

気がついてるのに電話にでなかったこと。 読んだけれど返信しなかったメール。 
履歴だけが残る携帯画面。 連絡しなかったこと美穂の11月の誕生日。 
自分だけが終わったって思ったから別れたくって、
でもそんな状況でごたごたするのを避けたくて、なかったことにしようと逃げてたこと。
 
 
笑えばいいのに。
笑ってくれればいいのに。

 
心底そう思った。 
彼女がここで笑ったら、ああ、きっと今ちゃんと幸せなんだって分かるじゃないか。 
美穂が幸せでいてほしいと、あの頃だって今だって、俺はきちんとそう思っているんだから。

 
「 最近誰とかと、会ってる? 」
「 まなみちゃんとか、さっちゃんとかとは時々会ってる。 覚えてる? 」
「 えーと、多分。 」

 
聞き覚えのあるその名前は、俺自身には接点なかったけれど
当時から美穂の口からよく聞く名前だったんだと思う。 

 
「 深田くんは? 」
「 俺は、矢野とか丸小野とか、部活仲間がいまだいろいろと。 」
「 そっか。 」

 
店内はひどく騒がしくて、小さな子供がもう行こうよとかなんとか叫んでいる。 
その上迷子の店内放送が流れて、しかも師走な今をもっとせかすような音楽がずっと流れて続ける。 
それでも新年を迎えようとする日本のあの独特の雰囲気とか空気がいたるところに充満していて、みんな幸せそうに笑ってるように見える。
だから、笑えばいいのに。 美穂も、前みたいに。 周りの人みたいに。 
 
そう思った途端、携帯が鳴った。 
微妙に居心地が悪いこの2人の間の空気を切り抜けれるチャンスに恵まれて、
俺は嬉々として電話をとった。

 
「 あ、終わった? うん、じゃ行くわそっち。 レジんとこいて。 ・・・はいはい。 」

 
そう話してる間に、美穂がかたりと席を立った。 

あ、あれ、いくの。 俺ももう行くから、ここいていいのに。 もう邪魔しないし。

 
「 あの、三重野さん。 」
「 じゃ。 」

 
美穂は飲みかけのカップを持ったまま、さくさくと歩いて行く。 
高校の時の制服姿や何度か見た私服姿とは全く違って、
厚いコートと高いブーツとちょっと高そうなかばんと、
それから見知らぬヒトのような後ろ姿が遠のいていく。

 
笑ってくれたらいいのに。
笑ってくれたらよかったのに。

 
そう思って、昔と同じくらい自分勝手な己に頭が痛くなった。

これからまた数年、美穂に会うことはないと思う。 
もしかしたらもう一生会うことないかもしれない。 
そしてそのうちきっとまた、俺はさっきまでと同じように美穂のことを忘れると思う。 

初めてつきあった子なんだけど。 
初めてキスした子なんだけど。 

だから、笑ってほしかった。 ちゃんと、笑ってほしかった。

でもそれは・・・。 

大きなため息が自然とこぼれる。 俺は、美穂が今幸せなのを確かめたいわけじゃない。 
幸せだと知って、安心したいとも思っていない。 
それなのに、ただ、笑ってほしかったんだ。 
笑ってくれたら、俺のこと許してるって確信できると思ったから。 
笑ってくれたら、俺も今の罪悪感から解放されるって思ったから。 

 
ただ、許してるっていうサインがほしかった。
ただ、それだけで。
 
 
 
遅いよ、とふくれた頬で俺を呼ぶ妹が、レジの前で荷物を指さす。 
嬉しそうなおかんと、まだ少し緊張した笑顔の彼女が俺を見つめる。 
俺の中で昔の美穂の面影も、今の美穂の後ろ姿も、途端おぼろげになっていく。 
俺がしたことを許してくれたのかまだ怒ってるのか分からないまま、美穂は俺の記憶の底に沈む。 うわずみに少し罪悪感が残るけれど、それもいつか浄化してしまうだろう。 
だから、笑ってくれればよかった。
笑ってくれればよかったのに。
俺の中で、美穂が、思い出になる前に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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おお、やっぱりせつないですね♪
ありさんのお話は
きゅーんとせつなくなって
忘れかけた(忘れきった笑?)恋愛感情を
思い出させてくれて
なんというか
若返ります笑!

オトコノヒトはずるいなあ〜なんて思っちゃいました。
ありさんはオンナノコだけど
オトコノヒトはこう思うんでしょーって
書いたのですか?

あ、でももしかすると
自然消滅パターンは
オトコノヒトのほうがオンナノコよりも
より強く罪悪感を持つかもしれませんね。

良かったです!
朝からロマンチック気分になりました♪
ともこ 2009/12/13(Sun)08:01:10 編集
大正解です
ともこさん

おはようございます!
早速の感想ありがとうございます。

書いた後で、「オトコノコってずるいよな~」と
自分で思ったので、ともこさんがそう思ってくれて、うれしい(?)!

ハッピーエンドのお話を、次回は書いてみたいですw
allie 2009/12/13(Sun)08:38:12 編集
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